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ザ・戊辰研マガジン

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コーヒーブレイク

2019年12月05日 19:19 by kohkawa3


その五十九 消えたバス停

 仕事の帰り、時々路線バスを利用する。ちょっと遠回りになるが、便利なショッピングセンターに立ち寄るのだ。
 この路線バスのルートの途中に大きな公共施設があり、施設名を冠したバス停があった。
 ところが数ヶ月前、この公共施設が老朽化のため取り壊され、別の場所へ移転した。施設移転の後、はじめてこの路線バスに乗った。車内はほぼ満席で、私はつり革につかまって立っていた。
 いくつかのバス停を通りすぎ、次は例の公共施設であった。降車ボタンが押され赤ランプがついている。私はつり革につかまりながら外を眺め、建物が取り壊された後の空き地をぼんやり眺めていた。
 空き地の脇をバスが通過しようとしたその時である。
「コラ運転士!何やってんだ。降りる人がいるじゃねえか!ボヤボヤしてんじゃねえ。」
と後部座席から大きな怒鳴り声が聞こえた。
 驚いて声のする方を振り向くと、白髪の体格の良い紳士が怒りの形相で運転士の方をにらんでいた。
 「あちゃー、バス停飛ばしちゃったよ。おっさん怒り狂ってるし、さあ、どうする運転士。」と私も思った。
 ところが、バスの運転士は平然と運転を続け、数十メートル先で何事もなかったように止まった。乗客は何事もなかったように降車して、バスは再び走り出した。
 知らなかったのだが、公共施設のバス停は廃止され、近くに新しいバス停が設置されていたのだ。
 運転士は公共施設移転から数ヶ月、何度もこんな事態に直面したのだろう。慣れたものであった。
 一方の白髪紳士は?と見ると、大きな体を座席に沈めてうつむいていた。白髪の間からみえた上気して赤くなった耳が印象的であった。
 このあと二人の間に何があるか、見届けたいのはやまやまであったが、目的のバス停に到着したので白髪紳士を残してバスを降りた。バスを乗り越してまで事態を確認するほど私はヒマではない。
 あの時、運転士が車内マイクで、バス停が移動したことを説明すれば、白髪紳士もその非礼を詫びて、シャンシャンとなったような気がする。
 しかし、運転士は沈黙を守り白髪紳士は気まずい思いを引きずることになった。今思えば、この沈黙は口汚く罵倒した白髪紳士への、運転士の復讐だったのではないかと思うのである。


その六十 俺はマラソンランナーだ!

 歩くのは好きだが、走るのは大嫌いである。中・高校生の頃、体育の授業で1500mや3000mの持久走を走るといつもビリの方だった。息が苦しくてヒーヒーいいながら、アゴが出てしまうのである。
 走ることが好きな人がいる。そんな人に聞くと、走っても苦しくない。疲れるときは足からくる。足がパタッと止まるのだという。調子のいいときはランナーズハイとなってエクスタシーを感じるらしい。何のことやら。
 先日、私の住む市主催のマラソン大会があった。メインのハーフマラソンには箱根駅伝を走るチームの学生や有名な社会人ランナーも参加する。30年以上続く伝統のある競技会である。
 所属する卓球部が市の体育協会の傘下にあるため、毎年、走路整理係のボランティアに駆り出される。今年で3度目になる。
 同じコースをハーフマラソンやシニアの5km走、小学生の男女と4つのレースが走る。市内の主要な生活道路に約4時間の交通規制がかけられる。
 時間内にすべてのレースを終了しなければならず、各レースに制限時間を設け、コースのやりくりをする。また、その間の市民の移動を妨げるわけにもいかず、ボランティアは選手の走路を確保しながら、歩行者や自転車の横断の誘導をする。けっこう大変なのである。
 各レースの終盤になってくると歩いているランナーや、必死に走っているがスローモーションのようなランナーなどいろいろだ。走るのが嫌いな私としては、こうしたビリの方のランナーを見ていると同情を禁じ得ない。
 そんなレースの終わり頃にも悲喜こもごもの出来事がある。
 ひとつのレース終盤近く、道路を渡りたいという中年の女性が現れた。今なら渡れるからと誘導しようとすると「もう少し待ちます」という。その女性が言うには「私も走るんだけど、ビリの方でヘロヘロになってても、目の前でコースを横断されるとムカつくのよ。」という。
 確かに「あの赤い人の前で渡ってください。」などというボランティアの大声とともに、目の前で5人も10人も集団でコースを横断されたら「あの赤い人」はムカつくだろうなと反省した。
 そしてまた、ひとつのレースが時間切れとなった。このあとのランナーには鋪道を走ってもらいますと大会関係者から指示があった。
 まだまだ、ランナーが何人もコースを歩いてくる。「ランナーの方は鋪道を歩いて・・走って下さい。」と心を鬼にして叫ぶのである。しかし、素直に応じるランナーは少なく、コースの中を歩き続けるのである。
 その背中は「俺はマラソンランナーだ!」と弱々しく主張しているのであった。


その六十一 にわかサバイバル

 日本開催のラグビーワールドカップは大いに盛り上がり、ラグビーファンが激増したと言われる。私もにわかラグビーファンとして連日テレビにかじりついた。
 しかし、ボールに触ったこともなければルールも知らない。ラグビーをやってみたいなどとはこれっぽっちも思わない、健全なラグビーファンである。
 ハイキング仲間のMさんがサバイバルに目覚めた。「にわかサバイバル」ファンである。これは始末が悪かった。
 Mさんはナイフや折りたたみスコップ、ロープなど道具をいろいろ買いそろえた。そして、本を読み漁っているうちに実践したくなった。
 あるハイキングでのことである。Mさんは実践の好機とばかりに、大きなリュックにサバイバル道具をつめてやってきた。休息のたびにリュックを探ってはサバイバル道具の点検に余念がない。しかし、使う機会が訪れない。
 その時、メンバーの長老が何気なく「今日はきついねえ。」といった。Mさんすかさず「よし、杖を作ってやる。」とナイフ片手に樹林に踏み込んだ。こんなところで木を切ってはまずいというメンバーの声には、緊急事態だからと耳をかさない。
 長老は出来上がった真新しい杖を断ることもできず使うことになってしまった。あとでコッソリ「すれ違うハイカーの視線が気になる。」とぼやくことしきりであった。
 道中、折りたたみスコップを何に使うのか聞いた。
 Mさん得意気に、「穴を掘ってウンコして埋める。」のだという。青空の下での解放感は分からないではないが、今時のハイキングコースは道も整備されており、要所要所にトイレもある。
 結局チャンスもないまま、麓に降りてきてしまった。諦めきれないMさんは村外れの畑の隣の原っぱに踏み込み目的を果たした。スッキリした顔をして原っぱから出てきたMさん、スコップを私の前につき出して「使う?」と聞いた。「いらねっ。」と答えた。
 ともかくも1日が終わり、麓の小屋に一泊することになった。その日の宿は板敷きの部屋があるだけの簡素な小屋であった。
 Mさんは部屋の隅で使わなかった太いロープを点検していた。危険な場所があれば、このロープを命綱にするつもりだったという。
 これを見ていた同行者の一人が、「おっ、いいの持ってるねえ。」と、汗でぐっしょりになったシャツやズボンを洗濯して干そうということになった。
 Mさんは大事な装備だと抵抗したが、結局、一度も使ってない命綱を物干しロープに提供する羽目になった。5人分の洗濯物が太いロープにつるされ、風にはためいた。「こりゃあ立派な物干しだ。」と好評であった。
 Mさんの「にわかサバイバル」はその後もしばらく続き、同行者にたびたび笑いを提供したのだった。
 Mさんは数年前に亡くなった。いまごろ草葉の陰でくしゃみをしているかもしれない。
  (大川 和良)

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