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【史跡を巡る小さな旅・七】東京ミッドタウン

2023年06月13日 14:13 by tange
2023年06月13日 14:13 by tange

 東京・港区赤坂に幕末の広大な大名屋敷を再開発した一画がある。東京ミッドタウンである。そこは、江戸切絵図、尾張屋清七・嘉永3年(1850)板によると、松平大膳太夫の中屋敷だった。徳川幕府は末期になると、外様雄藩の大名家に松平の姓を与え融和を図ろうとした。松平大膳太夫とは長州藩主・毛利大膳太夫のことである。
 この地は維新を主導した長州藩の屋敷跡のため、分割されることなく東京鎮台歩兵第一連隊の駐屯地となり、大戦後に防衛庁檜町庁舎となる。毛利藩邸の一部である庭園部分が区立檜町公園として残された。

 東京では近年、地域の大規模な再開発が盛んに行われ、現在も何か所かで進行中である。それらは事務所、集合住宅、店舗、ホテル、美術館、公園などの複合体として開発され、小さな街を形成している。東京ミッドタウンは、それらの中でも成功した再開発だと実感できる。
 ガレリアと名付けられた空間が、東京ミッドタウン全体を結び付ける魅力あふれる街路として計画され実現している。前面道路からガレリアの吹抜けを挟んで直線に延びた通路を行くと、一層下の緑豊かな屋外庭園に導かれる。四層の吹き抜けによって一体に構成された空間は、オブジェ、水盤、彫刻、竹林などで演出され、目にも楽しく、気分良く歩けるのだ。
 さらに、この再開発によって生まれた街には、中心となるような広場が無い。


東京ミッドタウン・ガレリア
 
 日本の歴史において特筆されるべき二つの都市がある。平安京(京都)と江戸である。
 桓武天皇による平安京は、中国・長安の都にその範をとったと言われている。大内裏(御所)を目指して南から朱雀大路が走り、それを中央大路として、左右にそれぞれ五本の大路が南北を貫く。それらに直交して、一条から九条までの大路が東西に走る。その碁盤目のように明快な都市構造は、現在の京都におおむね引き継がれている。
 一方、徳川家康の縄張りで始まった江戸は、戦国時代の名残で居城の防御のために街路が複雑で分かり難く造られた。しかし江戸は、歴代の将軍によって都市造りが継続され、自然河川に加えて大小の堀割りを張りめぐらした舟運の盛んな水の都として発展していった。
 二つの都市に共通しているのは、ヨーロッパ的な広場が無いということである。それこそが我が国の都市空間の特徴なのだ。
イタリア・ヴェネチアには、かのナポレオンに「世界一美しい広場」と言わしめたサン・マルコ広場がある。今でも夕暮れになると、そこへ人々が集まり、互いに交歓し、沈む陽を眺め一日の労をいやす。ヴェネチアでの市民生活は、この広場を核として営まれている。冬の仮装カーニバルに始まり、そこでは一年中多くの市民が参加する祭典が繰り広げられる。しかし、日本の都市生活では、そのような様相は見られない。
 京都の真夏の祭典、祇園祭では、山鉾が街路を巡行する。江戸の初夏を彩る浅草三社祭でも、神輿が街路を担がれながら町から町へと渡って行く。いずれも、ものすごい数の人々が集まり、街中が沸き上がる。
 古来、日本の都市には広場という概念が無く、街路での交歓が基本だった。

 昨今の都市再開発で広場を中心に据えた計画が失敗しているのは、計画策定者の「都市には広場が必ず必要である」とする思い込みの結果なのだ。
 東京・西新宿再開発の目玉となった都庁舎には、かなりの広さの都民広場が中央に設けられている。今そこを訪ねると、周辺に膨大な昼間、夜間人口を抱えているにもかかわらず、平日休日とも、人々がそこを避けているかのように人影がまばらだ。広場が都市に馴染んでいない典型的な例である。
 日本人が都市の広場に集まらず街路に引きつけられるのは、どういうDNAが働いているのか興味深いことである。いずれにしても、東京ミッドタウンのガレリアは、そういう日本人に相性が良いようだ。


六本木ヒルズ・毛利庭園

 東京ミッドタウン近くの六本木ヒルズは、毛利甲斐守の上屋敷跡がその用地のかなりの部分を占め、屋敷の一部が毛利庭園として残された。六本木ヒルズも広場をもたない優れた再開発の例で、毎日大勢の人々を引き寄せている。
 毛利一族が都心の二か所に大変魅力的な街を出現させていた偶然に驚き、それぞれの都市空間で楽しいひと時を過ごす小さな旅となった。

鈴木丹下


次号は「池田山、島津山、八ツ山、御殿山」と「麻布十番」です。

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