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ザ・戊辰研マガジン

2021年12月号 vol.50

一杯の怒りのかけそば

2021年12月05日 22:07 by norippe
2021年12月05日 22:07 by norippe


「一杯のかけそば」という物語があったのをご存じだろうか。


 大晦日、夜も押し迫った頃、札幌にあるそば屋に小さな子供二人を連れた母親がやって来た。
 「あのぉ・・・かけそばなんですけど?」
 閉店間際だったが、店主は「いらっしゃい!」といって母子を店内に入れた。
 店内に入ると母親が「あのぉ・・、かけそばを一杯なのですが」と言った。
 店主は「はい、かけそばいっちょう!」といって、内緒で一人前と半分、大盛の蕎麦を茹でた。
 そして母子は「おいしいね、おいしいね」といって一杯のかけそばを家族三人で分け合って食べたのだ。

 翌年の大晦日も一杯のかけそばを食べにこの家族は「北海亭」にやってきた。

 翌々年の大晦日は子供達も少し大きくなったので、かけそば二杯を注文した。店主はそば玉を三つお湯の中に入れ、二杯のかけそばを作った。

 母親は子供達に話かけた。「あのね、あなた達にお話しがあるの。お父さんの事故の賠償金が今日ですべて払い終わったの。本当は来年の三月まであったんだけど、お母さんが一生懸命働いたので、社長さんから特別手当が頂けたの。そのお金を残りの返済に支払ったので、これで全部終わったのよ」
 この母子は交通事故で父親を亡くした。その時事故で巻き沿いにあった八人の人達の損害賠償の支払いのため、母親は一生懸命に働き、長男は新聞配達をし、次男は家事の手伝いをしていた。
 そして、大晦日に「北海亭」のかけそば一杯を食べに来ることが年一回だけの贅沢であったのだ。
 子供達は「お母さん、良かったね」といって喜んでそばを食べた。
 調理場のかげでは、一枚の布巾の端をを引っ張りながら涙を拭く店主夫婦の姿があった。

 「北海亭」の店主夫婦はいつしか、毎年大晦日にかけそばを注文する母子が来るのが楽しみになった。
 しかしその後、母子は来なくなってしまった。
 それでも店主夫婦は母子を待ち続け、そして十数年後のある日のことである。

 大晦日の閉店間際、店の戸が開き、背広姿の青年が二人入って来た。
 調理場の火は落とし「今日はもうおしまいなんですけど」と店主が告げた時、二人の青年の後ろから、着物姿の女性が入って来て「あのぉ・・かけそばなんですけど」と注文をしてきた。
 その声を聞き、「北海亭」の夫婦は「あっ!」と気付いたのだ。
 あの待ちわびていた母子だと・・

 店主は急いでコンロに火を付け、毎年予約席にしておいて二番テーブルの予約札を外し、「どうぞこちらに」といって、まだぬくもりが残るストーブのそばの席に案内した。
 母とすっかり大きくなった息子二人が再び「北海亭」に現れたのだ。子供たちは就職して立派な大人となり、そして母子三人でかけそばを三杯頼んだのだ。
 「おいしいね、おいしいね」と喜ぶ母子の声が、店内に鳴り響いていた。





 涙なしでは語れないこの「一杯のかけそば」の物語であるが、これとは正反対の出来事がある家族に起きたので、ここで話をしよう。


「一杯の怒りのかけそば」
これは、ある家族(母親と娘)の実話である。

 母親と娘が東京有楽町へ行った時のこと、時刻は午後三時をまわっていた。
 朝食が遅かったせいか、昼食を取るにもそんなに腹は減っていない。「娘は軽く何か食べないとね」と言ったので、どこか早く食べれる店に入ろうかといって店を探した。
 有楽町のガード下に一軒のそば屋があった。八席くらいの椅子のあるカウンターと立ち席のカウンターがある店で、昼食のピーク時間も過ぎたせいか、店内には二人の客がいるだけだった。
 娘は少食なので、そば一人前は食べれないので、母親と半分ずつ食べることにした。入口に券売機があって、チケットを一枚を買ってカウンターに差し出した。
 するとカウンターの中の店員が「一枚?」
 母親は「娘の体調があまり良くないので、私と半分ずつ食べることにしました」と店員に告げた。
 店員から返って来た言葉は「うちは一人ひとつ注文をしないと困るのよね!」
 母親は「私も少食なのでそんなに食べれないのです。では、私は食べませんから、娘のぶんだけでお願いできませんか」と言った。
 「二人で座っていてそば一杯では、うちは困るんだよ」とぶっちょう面の店員の返事だった。
 「それでは私たちは食べるわけにはいかないので帰ります。返金していただけますか」と話ししたら
 「うちはチケット販売機なので返金は出来ない」と言うのだ。

 二人で食べてはいけない。返金も出来ない。一体どうしたらいいのだろうと母親は思ったが、私が外に出ればいいかと考えた。娘は「私ひとりでは嫌だ」と言い出したが「いいからあなたは食べなさい」と言って娘に食べさせた。
 母親は外のガラス窓から店内を覗き込み、調理場にいる店員をにらみ付けていた。

 すると店内から一人の年老いた店員がゴミを投げに出て来た。
 母親は言った。
 「あなたの店はどうなっているのですか?二人で入って一つの注文では大変申し訳ないとは思います。でも、本当にひとり一つは多いし、残しては勿体ないと思います。ましてや客席はガラガラに空いているわけですから、娘のそばにいてもいいのではないですか?今までいろんな店に入りましたが、こんな店初めてです」
 するとその年老いた店員は「仕方ねぇな、うちはそれが決まりだから!嫌なら入らなければいい」
 母親は「入らなければって、返金もしてくれないのはどういう事なのですか?」
 年老いた店員は「だから、それはうちのシステムだから」と言って店内に戻って行った。

 娘はそば半分を残して店から出て来た。店員から「ありがとう」の一言もなかったそうだ。
 母親はどうにも怒りが収まらず、店の名前と外観を写真におさめ、消費者センターへ連絡をした。

確かに一人一品はお願いしますという店は沢山あると思うが、あまりにこの店の対応は横柄である。


 私の経験からの鉄則
 「いらっしゃいませ」の声掛けがない店には入るべからず。たとえどんなに美味しい料理があっても「いらっしゃいませ」や「ありがとう」が言えない店に美味いものなど無い。食べたあとの後味も評価の一部だ。
 店内に入って「いらっしゃい」もなく、にらみ付けるように見られたら、すぐさま店を出るべし。
 愛想が良くて美味しい店は、他にいくらでもあるのだから。


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