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【幕末維新折々の記・二十二】旧米沢高等工業学校本館

2021年10月03日 21:25 by tange


 私の高祖父・鈴木丹下は、慶応4年(明治元、1868)2月、家督を譲られ会津藩主となった松平喜徳(のぶのり)の親書を携え、米沢城を訪ねている。鳥羽・伏見の戦いに敗れ謹慎していた先の藩主・松平容保(かたもり)の救解を米沢藩主・上杉斉憲(なりのり)にお願いするためだった。 

 私は、平成26年(2014)6月、先祖の足跡を求めて米沢市を訪れた。
 米沢駅に降り立った私は、その広い駅前広場の樹木一つない殺風景な様子に驚いた。戦国の雄、上杉謙信から綿々と続いた名門大名家の城址へ真っすぐ延びる道の起点となる場所として、果たしてこれで良いのかと強く疑問に思った。
 駅前広場の所々に上杉家縁りの杉木立などを植えるのは、それほど難しいこととは思えなかった。この広場はバスとタクシーの乗降所として使われていて、それらの運行経路を妨げるような植樹が許されないことは素直に理解できる。しかしどう見ても、木立のための造園地が全く無いようには思えなかった。
 夏の強い日差しを遮る木陰もない全体が灰色の広場を見ていると、〝やろうと思えばすぐ出来るのに〟という惜しい気持ちになるのである。
 
 さらに景観を悪くしているのが、JRの西口駅舎である。
 その駅舎は、平成5年、旧米沢高等工業学校本館をモデルにして設計されたという。平成14年(2002)には「東北の駅百選」にも選定されている。「駅百選」の選定基準を承知していないが、旧米沢高工本館とは〝似て非なるもの〟で、その設計の精神を継承しているとはとても思えない。いずれも横長の建造物であることだけが共通しているに過ぎないのだ。
 そもそも、不特定多数の人が絶えず出入りする交通施設と限定された学生が集まり学ぶ教育施設は、〝動と静〟という対立的な空間で根本的に異なっている。駅舎のデザインモデルを教育施設に求めること自体が、間違いだったのではないか。

 明治43年(1910)、米沢城址の南に米沢高等工業学校が開学した。全国七番目の高等工業学校で、染織産業の長い歴史を持つこの町に、染織学科を主科目として発足。昭和24年(1949)の学制改革により改組され、山形大学工学部となり今日に至っている。
 その本館は、同校が開設した年の7月に竣工。中央に事務室、校長室、会議室などを設け、左右を教室とした木造二階建ての学舎である。それは、グレーに塗られた下見板張りの外壁に天然スレートと瓦で葺かれた黒い屋根が心地よく調和し、フレンチ・ルネサンス様式を強調した中央部から左右対称に両翼を広げた全長94メートルにも及ぶ建造物である。
 2階会議室では、絶妙な左官仕事で仕上げられた漆喰天井の三連メダイヨン(大型円形メダルの意匠)の精緻な模様に驚嘆させられる。
 設計者は文部省建築課設計技師・中島泉次郎で、その美しい明治建築は、昭和48年(1973)6月、国の重要文化財に指定された。
 旧米沢高等工業学校本館は、キャンパス内の現代建築群に囲まれ、凛と存在感を示している。米沢の街には、素晴らしい近代歴史的建造物が残されたものだ。
 また米沢は、明治から昭和初頭にかけて活躍し、我が国の近代建築に大きな影響を与えた建築家、伊藤忠太の出身地だ。彼は、米沢城址に建てられた上杉神社社殿(国指定の重要文化財)を設計し、初の米沢名誉市民にもなった。さらに、東京の築地本願寺(国・重文)を初め、文化財としての建造物を複数残している。
 私は、優れた建築空間を生む土壌に恵まれた米沢の表玄関である駅舎とその周辺の様子に、やはり納得がいかない。
 
 旅人の私にとって米沢の第一印象はあまり良いものではなかったが、東北有数の河川、最上川を越え米沢城址(上杉神社)、上杉家廟所、林泉寺、旧米沢高工本館などを徒歩で巡り、好ましい都市のスケールを体感するうちに、米沢の城下町に魅せられていった。
 (鈴木 晋)


米沢高等工業学校本館(国指定の重要文化財)

 
 次号、「東京都立中央図書館」




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