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ザ・戊辰研マガジン

2020年09月号 vol.35

いつの時代も続くパワハラ

2020年09月06日 22:11 by norippe
2020年09月06日 22:11 by norippe

 幕末から明治初期は、江戸時代の厳しい身分制度がまだ続いていた。

 日米修好通商条約の批准書を交わすため、幕府がアメリカに差し向けた万延元年遣米使節団。1860年1月に江戸を出てから約9カ月間の航海の中では、身分制度からくる軋轢で、下級の従者たちはさまざまなストレスを感じていたようだ。ただでさえ、限られた空間の中で同じメンバーが来る日も来る日も顔を突き合わせるのであるから、ストレスを感じるのも無理はない。


遣米使節団

 下級の者にとっては看過できない場面にたびたび直面した。航海術を熟知する者にとっては、異国の軍艦の中にいるだけで興味は尽きない。しかし、使節団の上級者の中には今回の役目をつまらない役目と思っていた者もいて、時間を持て余して日の高いうちから酒を飲んで雑談をしたり、昼寝をしたりしながら午後のひとときをやり過ごすしかなかったのである。
 賄い方が懸命に作った食事に文句をつけ、平気でそれらを捨ててしまったりする者もいた。他にも下級の者に対し理不尽なののしりを浴びせる場面も多くあったようだ。

 記録係として随行した仙台藩士の玉蟲左太夫は、航海中につけていた秘密の日記の中で、上級者たちの振る舞いに対してこう記している。
 『我が国は二百年余りにわたって国運が盛んで平和に治まってきているので、何事に対しても古い習慣にこだわって改めようとしない。また、ぐずぐずして決断をしない。そして、一層の精進の心を忘れている。もし、精進・精励するものが居るとしてもそれはただ名利を求めるだけで、実用の役に立たない。暇があるとみれば昼寝や飲酒。その怠惰さは言いようがない。たまたま志のある者が居て種々の意見を建白すれば、他人からは愚か者とか狂人と誹謗される。どのようにしてその志を伸ばすことが出来るだろうか。今、同じ艦に乗っているアメリカ水兵たちの精勤ぶりや、互いに助け合い励み合っているのを目にして、同じ人間として心に恥ずかしいものを覚えるほどである』

 玉蟲という男はどちらかと言えば異国嫌いで、江戸を発った当初はアメリカ人を毛嫌いしていた節があった。ところが、彼は1カ月も経たぬうちに、アメリカ人水兵たちのきびきびした動きや親切に心を打たれ、昼から酒を飲んで騒いでいる一部の日本人に対し「同じ人間として恥ずかしい」とまで表現しているのだ。一部の日本人とは上級者のことであるが、身分が高いのをいいことに、我が物顔で事を進めるのは現代でもよく見受けられる事である。


各省庁が集まる霞が関

 東京霞が関はパワハラのオンパレード。一年前の朝日新聞に、厚労省職員の4割超が「パワハラやセクハラ等を受けたことがある」との記事がある。また「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」という若手の職員が綴ったアンケート結果もあった。人事異動などが「適切になされていると思わない」という意見も4割近くあり、「セクハラやパワハラを行っている幹部・職員が昇進を続けている」と理由に挙げた内容も綴られていた。
 パワハラやセクハラはどんな会社や団体にも、多かれ少なかれあるかとは思うが、特に霞が関では計り知れない数に上るのではないだろうか。


建設中の森友学園

 学校法人「森友学園」の国有地売却問題を担当した財務省近畿財務局職員だった赤木俊夫さんが自殺した事件があった。自殺した赤木俊夫さんの妻の雅子さんは、国と元財務省トップの佐川宣寿氏を相手取り、1億1200万円の損害賠償を求めて訴訟を起こし、口頭弁論が大阪地裁で開かれている。妻の雅子さんは、自殺は決裁文書の改ざんを強制されたのが原因として「真実が知りたい」と訴えたのである。
 赤木さんの自殺を巡っては、財務局が民間企業の労災に当たる「公務災害」と認定している。国側は改ざんの経緯など事実関係はほぼ争わないとしたが、追って具体的に反論するとした。
雅子さんは意見陳述で、赤木さんが国家公務員の仕事に誇りを持っていたとし、「決裁文書の書き換えを強制された。心の痛みはどれだけだったか」と訴えた。国の調査報告書や情報開示が不十分だと指摘し、「真面目に働いていた職場で何があったのか、何をさせられていたのか知りたい」と述べたのである。
 訴状などによると、2017年2月、財務局が大阪府豊中市の国有地を鑑定価格から8億円余り値引きし学園に売却していた問題が表面化した。当時、理財局長だった佐川氏は財務省の部下に決裁文書の改ざんを指示。赤木さんは抵抗したが、財務局の上司の指示を受けて3、4回にわたり改ざん作業を強制された。
 この結果、長時間労働や連続勤務で心理的負荷が過度に蓄積。同年7月にうつ病と診断されて休職し、18年3月7日に自殺した。

 決裁文書の改ざん問題では財務省が18年3月、決裁文書14件の改ざんを認めた。同6月に佐川氏が主導したとする報告書を公表、同氏ら20人を処分した。佐川氏や財務省関係者らは虚偽公文書作成容疑などで告発されたが、大阪地検特捜部はいずれも不起訴とした。
 財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木さんが、改ざんの経緯などを書き残していた「手記」などを、遺族が弁護士を通じて公表した。国会での追及をかわすため、財務省の本省が主導して、抵抗した現場の職員に不正な行為を押しつけていた内情が克明に記されている。

 「手記」は2種類あり、自殺した日の日付の手書きのものには「今回の問題はすべて財務省理財局が行いました。指示もとは佐川宣寿元理財局長と思います。学園に厚遇したととられかねない部分を本省が修正案を示し、現場として相当抵抗した。事実を知っている者として責任を取ります」などと記されている。
 また、もう1つの「手記」はパソコンで7ページにまとめられたもので「真実を書き記しておく必要があると考えた」との書き出しで始まっている。
 学園との国有地取引きが国会で問題化する中、野党の追及をかわすために財務省本省が指示していた不正行為の実態について、財務局の現場の職員の視点で細かく記されている。
 この中では、実際には保管されていた学園との交渉記録や財務局内の文書を、国会にも会計検査院にも開示しないよう最初から指示されていたと明かしたうえで、事後的に文書が見つかったとする麻生財務大臣など幹部の国会での説明に対し、「明らかな虚偽答弁だ」という認識を記している。
 さらに「虚偽の説明を続けることで国民の信任を得られるのか」と財務省の姿勢に疑問を投げかける記述や「本省がすべて責任を負うべきだが最後は逃げて、財務局の責任にするのでしょう。怖い無責任な組織です」と組織の体質を批判する記述もあった。
 そして最後に手記を残す理由について「事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。55歳の春を迎えることができない儚さと怖さ」と締めくくっていて、死を覚悟してまでも自身の責任を果たそうとした赤木さんの思いが読み取れる。

 一方、「遺書」はすべて手書きで3通あり、家族に宛ててこれまでの感謝の気持ちを記したもののほか、1通は「森友問題」という書き出しで、「理財局の体質はコンプライアンスなど全くない これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。恐い命 大切な命 終止符」と財務省への憤りが記されていた。
 妻の雅子さんは「佐川さん、本当のことを話して下さい」と言う。赤木さんの妻は提訴に合わせて、手記や遺書を公表した理由やいまの心境をメッセージとしてまとめ、代理人の弁護士が記者会見で読み上げた。

 「夫が亡くなってから2年が経ちました。あの時、どうやったら助けることが出来たのか。いくら考えても私には助ける方法がまだ見つかりません。心のつかえが取れないままで夫が死を決意した本当のところを知りたいです。夫が死を選ぶ原因となった改ざんは、誰が何のためにやったのか。改ざんをする原因となった土地の売り払いは、どうやって行われたのか。真実を知りたいです。今でも近畿財務局の中には、話す機会を奪われ苦しんでいる人がいます。本当のことを話せる環境を財務省と近畿財務局には作ってもらい、この裁判で全てを明らかにしてほしいです。そのためにはまず、佐川さんが話さなければならないと思います。夫のように苦しんでいる人を助けるためにも、佐川さん、改ざんの経緯を、本当のことを話して下さい。よろしくお願いします」

 佐川氏側は「公務員が違法に損害を与えた場合、賠償責任があるのは国で、公務員個人は責任を負わないことが判例として確立している」と主張している。民間企業ならこんな事がまかり通るはずもなく、公務員だから個人的責任はないとは、あまりにふざけた話だ。


元財務省理財局長の佐川宣寿氏

 恥ずかしながら、この佐川宣寿氏の出身は私の住んでいる福島県いわき市平。激動の幕末の政治を担った安藤信正のひざ元である平で生まれ育った。平一小、一中を卒業し、その後、通常であれば地元の磐城高校に入学し、大学へと進むのであるが、佐川氏は父親が亡くなったこともあり、東京の九段高校に進学し、そして東大へ入学、そして大蔵省に入省したのである。エリートコースを突き進んだ佐川氏であったが、結局は大きな組織で吠えるだけの飼い犬でしかなかったのだ。

 そのいわき市で2017年に二十代男性職員が自殺した。
 男性は課税業務を担当していた。地方公務員災害補償基金県支部が、2017年1月の超過勤務が過労死ラインを超える約152時間だったなどと認定。市は適切な勤怠管理ができていなかったことを認めた上で、遺族側と交渉を重ね、44,933,993円の賠償金を支払う事で合意に達した。
 管理の問題で済む事ではなく、これも結局は上層部からのパワハラがあったからこそではないだろうか。公務という名のもとで優秀な若者達が、パワハラで心を痛め「死」を意識して働き、そして「死」に至る。
 時代が変わっても、この身分という制度が変わる事はないのだ。そして身分制度が続く限り、パワハラがなくなることはないのである。


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