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長州出身の伊集院静を赦す

2020年05月29日 20:33 by date
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 私は時折東北新幹線を使う、その新幹線の車内での楽しみは備え付けの小冊子を読むことである。JR東日本の路線であることから主に東北や北陸、関東がの記事が満載だ。その中での楽しみは作家の伊集院静のエッセイである、伊集院静のエッセイはきれいな言葉を使い、簡潔な文章であるがそのところどころには大人の気品が漂っている。そのために読後はすがすがしく私自身が立派な大人になったような気がする。

JR東日本が新幹線内で発行する月刊の小冊子

 そのような下地があったのでしょう、伊集院静のエッセイ集を買ってしまった。

講談社文庫「ねむりねこ」 伊集院静 著

  買ってしまったというには伊集院静に対する下種な印象がある。「なんだぁー、こおいつ」と伊集院静に対して私がけんか腰になってしまったことが何度もある。
 伊集院静という人は酒飲みでギャンブラーで小説家という印象がある、そういう人が最初の奥さんと離婚ののちに結婚した人というのが、当時美人女優として人気絶頂だった「夏目雅子さん」である。これが第一の「なんだぁー、こおいつ」である。当時の夏目雅子さんはモデルとしても女優としても脚光を浴びていた人であるから私が驚くのも無理がない。ところがその夏目雅子さんだが、白血病で若くして亡くなってしまった。そして次の「なんだぁー、こおいつ」は、仙台出身の美人女優の「篠 ひろ子」さんと再婚したことである。篠ひろ子さんは幼少のころから敬虔なカソリック教徒であることから、学校は「聖ウルスラ女学院」に通う人であった。「聖ウルスラ女学院」といえば小中高の一貫校であり、その制服姿というのがベレー帽姿であり、当時の仙台にはベレー帽を被る女子生徒は、聖ウルスラ学園と聖ドミニコ学園の2校のみであり、武骨な男子生徒であった私は大いに聖ウルスラの女生徒に憧れたものであった。その聖ウルスラ女学院に通う篠ひろ子さんの評判は、男子校に通う私のもとにも届いていた。そんな篠ひろ子さんと再婚した伊集院静に私は大いなる反感を持っていた。
 そして第三の「なんだぁー、こおいつ」は、その伊集院静が居を構えたのが篠ひろ子さんの出身地、宮城県仙台市である。仙台市と言えば不肖私が高校大学と通った私の地元である。私がかつて吸っていた仙台の空気を伊集院静が吸うのである、伊集院静よ、あまり私の思い出の地を荒らすんじゃない、と思うのも当然である。
 そして第四の「なんだぁー、こおいつ」となるのが、伊集院静は作家とギャンブラーの傍ら、作詞家として名声を馳せていたのである、作詞家と言っても演歌調の「愛だ、恋だ、酒だ、涙だ」というようなじっとりと濡れたような詩ではない、若いアイドル歌手が唄う歌の詩を書くのである、あのような渋い中年のおじさんのどこから「ギンギラギンにさりげなくうー」なんて言葉が出てくるのだろう。
 いや、そういう言葉の発想が問題ではない、その作詞家の時のペンネームがなんと「伊達 歩」というのである、つまり伊達藩を歩く人という意味であろう。だったら歩かずに自動車で行けと言いたいが、ここはそんな問題ではない。やはり伊達藩と東北を敬愛しているのだろう、その発想がいじましい。
 仙台市に住み、仙台の女性と結婚し伊達を名乗る作家を赦してあげようというきっかけが、今回私が読んだ「ねむりねこ」の中ににあった。
 
 伊集院静は山口県の防府市出身である、山口県出身といえば長州である。長州であれば歴史については維新の志士だとか文明開化を進めたとか言うところであるが、伊集院静はそうではなかった。彼は大学時代に野球部に入っていたが、その野球部では長州出身という理由だけで会津出身の先輩に殴らたそうである、だがそのことについては一切恨みなど書いていない。
 さらに独身時代に住んでいたアパートの土佐出身者と警察沙汰になったほどの喧嘩をしたそうである、長州と土佐と言えば同じ維新を果たした同志であったはずだが、明治以降の長州閥が力をふるまったことで他国出身の有能な逸材を潰してしまったと伊集院静は嘆いているのである。
 勝てば官軍のはずの長州に抗い、仙台の女性と結婚し仙台に居を構えペンネームで「伊達」を名乗る男をどうして私は毛嫌いすることが出来ようか。
私は伊集院静を赦す。

記者 伊藤 剛

 

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