ザ・戊辰研マガジン

2018年09月号 vol.11

幕末人物終焉の地(6- 5)井伊直弼

2018年09月04日 11:23 by norippe

 幕府には、「定められた日以外に無断で江戸城に登城してはならないない」という定めがあった。直弼は詰問を受けてから数日後、この定めを破ったことを利用して、斉昭や慶永らに隠居・謹慎の処分を下し、政治活動が行えないように封じ込めたのである。これが「安政の大獄」の始まりとなったのだ。この直弼の強行措置に反発した水戸藩士らは、京での政治工作を盛んに行い事態の逆転を狙うのであるが、それが更なる争いを呼び込むことになってしまうのである。

 主君の斉昭が謹慎させられたことに反発した水戸藩士らは、朝廷に働きかけを行い、孝明天皇から幕府を非難する声明を得ることに成功するのである。世に言う「戊午の密勅(ぼごのみっちょく)」と呼ばれるものである。これが「密勅」と呼ばれる訳は、正式な手続きを経ずに水戸藩の手に渡ったからである。この密勅の中で、孝明天皇は朝廷の許可なく日米修好通商条約を締結した幕府を非難し、その経緯を詳しく説明することを要求するのである。そして水戸藩に、諸国の大名たちにこの声明を通達することが命じられるのだが、これが大きな問題となるのである。

 水戸藩はあくまでも幕府の家臣でしかないのに、直接天皇とつながりを持ったことで、幕藩体制を崩壊させる引き金をひこうとしていたからなのだ。幕府の権威は、朝廷から徳川将軍家の人間が征夷大将軍に任じられ、全国の武家を統率する権限を与えられることによって維持されていた。しかし、将軍家以外の武家が直接朝廷とつながってしまうと、この権威の前提条件が崩れ去ってしまうことになる。(実際、この後で長州藩や薩摩藩が直接朝廷とつながりを持つことで、幕藩体制は崩壊していく。)放置しておけば幕府の権力構造そのものが破壊されてしまうため、密勅の存在を知った直弼は、水戸藩に対して勅書の返納を求めたのである。水戸藩はかねてより政治的な闘争を繰り広げていた相手であり、そのうえ今回は幕府を崩壊させかねない暴挙に出たため、容赦なく叩き潰してやろうと、直弼は心を固めていったのだ。

 これを受け、水戸藩は天皇を支持する尊王派と、幕府に従うべきだという佐幕派に分裂していくのである。水戸藩は家康の子どもが作った分家であったため、当然佐幕派も多かったのであるが、一方で尊王思想の研究を水戸光圀の時代から行っており、このために幕末において思想的に分裂した状況におかれていたのだ。やがて尊王派は勅書の返納要求を拒むために小金宿に集結し、あくまで直弼に反抗し続ける姿勢を見せたのだ。これを受け、直弼は水戸藩への弾圧を強行するのである。幕府の権威が大きく失墜する瀬戸際であり、直弼の暗殺計画が持ち上がっているという報告もなされていたため、この時に直弼の取った措置は、非常に厳しいものとなった。

 直弼は密勅を得るための工作を行った、水戸藩家老の安嶋帯刀を切腹させ、その他にも事態に関与した藩士たちを斬首、遠島などの重罪に処したのだ。また、直弼は老中の間部詮勝(あきかつ)や京都所司代の酒井忠義らを上洛させ、密勅を得るための工作に加担した、梅田雲浜(うんびん)らの尊王派の志士たちを捕縛させたのである。この時に梅田雲浜が長州藩を訪れた時に面会をしているからという理由で、尊王思想家の吉田松陰も江戸に召喚され、尋問を受けることになった。吉田松陰は江戸での尋問の際に、老中を拉致・脅迫する計画を立てていたことを告白して処刑されてしまうのである。


処刑された吉田松陰・橋本左内

 さらには朝廷の公卿や皇族たちも、逮捕されたり辞職に追い込まれ、尾張藩や福井藩、土佐藩などの藩主たちも含め、多方面に渡って謹慎や追放などの刑が下されたのだ。
 御三家の水戸藩や尾張藩のみならず、外様大名である土佐藩らの当主と家臣、朝廷の大臣まで処罰したのだ。さらには直弼の命令に反し、ハリスとの調印を行った役人たちも左遷し、この直弼の強行措置に反対した老中の間部詮勝らも罷免し、直弼はすっかり孤立してしまうことになるのである。さながらそれは暴君のごときふるまいで、当然のことながら、直弼の行動は、大きな反発を招くことになっていくのだ。この時に直弼が処罰を下した相手は、最終的には100名以上になったのである。

(次回に続く)

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