ザ・戊辰研マガジン

2018年08月号 Vol.10

コーヒーブレイク「種々の小さな話」

2018年08月05日 17:09 by kohkawa3

その十七 夏休み

 最近の小中学校の夏休みは8月の途中で終わってしまうらしいが、昔は8月31日が夏休みの最終日だった。
 私の夏休みは、夏祭りの「おかえり」とともに始まった。神様が町内ごとの「お仮家(かりや)」から神輿と一緒に神社に帰る日である。
 夏祭りが終わると夏休みの計画を立てる。毎年決まって日記以外の宿題は7月中の一週間で終ることになっている。
 24時間の色塗りの円の中に「勉強」「勉強」という扇型がいっぱい並ぶ。「勉強」の色はよく目立つ赤だったような気がする。
 しかし、祭りが終わると7月中からソフトボール大会があり、7月末には花火大会、8月に入るとプール、子供会の旅行、林間学校、盆踊り。
 気がつくと野アザミが揺れ、秋風を感じる季節になっている。
 それでも、そわそわしながら遊び続けるうちに、8月31日が目前に迫る。こんな時、地球の終りを夢見るのである。自分だけいなくなるのは嫌だけど、みんな一緒に無くなるならいいかな、などと思ったりする。
 でも地球はなくなることもなく、地獄のような数日が始まるのである。8月31日の深夜にはどうにか無事にカタがつくが、自由研究、図工、作文などは妥協の産物が出来上がる。
 そして、あくる年もまた8月31日の悲劇を繰り返す。
 社会人になり、小さな業界誌の編集部に所属する。仕事の締切が近づくたびにそわそわし、胸をざわつかせながらも、尻に火がつくまで仕上げにかからない。不安と重圧に襲われる。少年時代と何ら変わらない。
 しかし、還暦を過ぎて時間を勤め上げれば良い仕事につき、締切のない平穏な日々を過ごすようになって気がついた。8月31日は夏休みの終りであると同時に、新学期の始まりでもあったのだ。
 終りがなければ始まりもない。今、こうして文章を書いているのは、少年時代の夏の終りの胸のざわつき、あせり、緊張感などを求めているのかもしれない。


その十八 風の盆

 30年以上も昔のことだが、会社の出張で富山県の八尾(やつお)町にある電子部品工場へ行った。8月の暑い盛り、富山駅からローカル線に乗り、越中八尾駅で降りた。無人の小さな駅で、数人が乗り降りして、しばらくすると駅には私一人が残された。
 えらい所へ来たもんだと思いながら、駅舎の壁を見ると、「おわら風の盆」の大きなポスターが何枚も貼ってあった。小さな駅舎の不釣り合いなポスターに違和感を覚え、記憶に残った。その時は「おわら風の盆」については何も知らなかった。
 数日後、会社に戻り風の盆について周辺の人に聞いたが、誰も知らなかった。
 その後、折に触れて風の盆の情報に接するようになり、当時から有名な祭りだったことを知った。
 現在は、全国的に知れ渡り、旅行会社の企画する祭りツアーの中でも人気が高い。祭りの行われる9月1日~3日の間に25万人もの見物人が訪れるという。
 この時ばかりは、八尾出身の青年男女が大方故郷に戻ってくる。そして、夜明けまで踊り明かすという。
 残念ながら一度も行ったことがないのだが、数年前、風の盆を詠んだ俳句に出会った。
 〈 日ぐれ待つ青き山河よ風の盆 〉 大野林火
 晩夏、ふるさとの山河は緑濃く、沢音が遠くにかすかにひびく。蒸し暑さの残る祭り初日の午後、風もなく、時間がとまったようなひと時である。
 家々には祭りのために帰省した若者たちが、衣装をととのえ、爆発寸前のエネルギーを押さえて、静かに日暮れを待っている。祭りの前の静けさ。そんなふうに解釈した。
 ずいぶん昔、誰か忘れたが、風の盆をこよなく愛するという作家が次のようなことを書いていた。
 風の盆は町内ごとに踊り手たちがまとまり、それぞれに夜通し町を練り歩く。友人と夕涼みをしながらそぞろ歩きをしていると、思わぬ辻の闇の中から踊り手たちが浮かび上がってくる。そして、闇の中に消えていく。そんな出会いがたまらない。
 日本を代表する祭りになった今でも、そうした風情が残っているのだろうか。昨年「おわら風の盆・夜行日帰り弾丸ツアー」に参加したという友人に話を聞いた。なかなか良かったという事だったが、大変な混雑だったようだ。
 イメージばかり勝手にふくらませてしまった風の盆。一度は行きたいと思っているが、自分の中のイメージを壊したくないとも思うのである。
   (大川 和良)

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