今から40数年程前になるが、仙台市で学生をしていた私のアルバイトの一つが「陸送」の仕事であった。「陸送」とは自動車会社から地方の販売会社へ新車を届ける仕事である。
真新しい自動車に乗り深夜に仙台市を出発して、渋滞のない国道を一晩中ひたすら走り続けて、東北各地の販売会社に届けるのである(当時高速道路はまだなかった)。届けた後は早朝に、国鉄(今のJR)の急行列車に乗り込み仙台に戻るのであるが、徹夜で走り続けていたのですぐに眠りたい、でも明るい朝の時間は眠れずお酒の力を借りるわけだが、その時のお酒が「雪っこ」であった。東北各地の駅の売店で販売されていた。ちょっと甘くて甘酒の様相であったが、つまみなしのワンカップのの宴会で、徹夜のアルバイトの疲れが癒されるのであった。
「酔仙酒造株式会社」
本社:岩手県陸前高田市高田町字大石1-1
新蔵:岩手県大船渡市猪川町字久名畑136-1
そんな「雪っこ」の味から離れて30数年後、「雪っこ」の酔仙酒造の名前を見たのは、2011年の東日本大震災を報道するテレビの画面だった。
(酔仙酒造株式会社のホームページ画像を引用させていただきました)
津波に流された陸前高田市の街中の様子の映像で、がれきから突き出た鉄骨の先にあったのは、「酔水酒造」の名前の入った酒樽であった。その酒樽は空中の中で「酔水酒造ここにあり」と叫んでいるように見えたし、「早く酒を造ってくれ」と叫んでいるようにも見えた。
震災後の酔水酒造は、同じ岩手県一関市千厩の岩手銘醸株式会社の酒蔵を借りて、震災のあった同年の9月に仕込み10月1日の「日本酒の日」に見事に復活されたのであった。「雪っこ」の復活に陸前高田の市民はこぞって酔水酒造に駆け付けたという。その報道を私はテレビで見て思わず落涙したものだ。
社員7名を亡くし社屋も流された酔仙酒造はその後、陸前高田氏に本社を建て大船渡市に新しい蔵を建て見事に復活した。
この正月に仙台市に帰省した時に、偶然に駅ビルで「雪っこ」を見つけた。東北では普通に「雪っこ」が買えるのであった。懐かしくありその復活にうれしくもあったが買い占める元気はなかった。なぜなら「雪っこ」は大変危険なお酒であるからだ(あくまで個人の感想です)、雪っこのアルコール成分は21度を超えており、日本のテキーラと言ってもいいほどの強さで、「雪っこ」を飲んだ後に日本酒を飲むと日本酒はまるで水のように感じられ、ガブガブと飲んでしまうのであった。雪っこを飲んでから日本酒を飲む、これは大変危険な飲み方である。
ちなみに「雪っこ」は私に言わせると、「日本酒のヤクルト割り」といってもいいだろう。
危険な「雪っこ」はワンカップでも1個で充分である(あくまで個人の感想です)。
伊藤 剛
読者コメント