ザ・戊辰研マガジン

vol.3

父が愛した会津喜多方銘酒「夢心」こぼれ話

2018年01月05日 13:52 by norippe

「夢心」
なんて響きのいい名前だ。
何故か呑む前から名前を見ただけで心が踊る。そして呑んだ後は心地よい眠りにつき、いい夢を見させてくれる、そんな酒が「夢心」だ。
 私がまだ小さい頃、父は仕事が終わると台所から一升瓶を出して来て、トクトクトクといい音を立てて瓶の中の液体をコップに注ぎ、グイッっと呑んでは溜め息をついて「うまい!」と一言叫ぶのだ。そんな父を喜ばせてくれる酒が「夢心」なのである。

 父は福島県生まれの職人で、渋谷の道玄坂に小さいながらも店を持って商売をしていた。母は神奈川の川崎生まれで、東京で父と知り合って結婚をした。恋愛結婚だった。なかなかやるな。そして渋谷で店を持って間もなく、招集令状が届き、父は出兵してしまったのだ。
 母は父の生まれ故郷の福島県に疎開し、父の実家に世話になった。実家では父の兄の子供の世話をするのであるが、何人もの子供の面倒を見るのは大変だった。3番目の子供を背中におんぶをしていた時、いきなり「アッポアッポ」と言って子供が泣き叫ぶのであるが、母はなんの事だかさっぱりわからず戸惑っていたら、そのうち背中からプンプンと匂いが漂って来たのである。
「アッポ」とはこの田舎ではウンチの事だったのであった。川崎で育った母には田舎言葉はまったくわからなかったのである。
 戦争が終わり、戦地に行っていた父は無事に日本に帰って来て、ようやく母と一緒に福島で暮らすことが出来たのである。
 父は戦時中、軍隊の楽団に所属していた。家ではギターを弾いて私たち家族に聴かせるのであった。古賀メロディが多かった。母は遠く故郷の川崎を慕って、霧島昇の「誰か故郷を想わざる」をいつも口ずさんでいた。そしてたまに父のギターを伴奏に歌うのである。



 父は戦地では鉄砲を担ぎ、弾がビュンビュン飛び交う最前線で戦って来た兵士だった。酒を呑むと必ずと言っていいほど戦争の体験談が出る。
馬を引いて戦地を進軍していた時、馬がぬかるみにはまって抜け出せなくなり、なんとか助け出そうと手綱を引っ張っていた時、敵の弾が飛んで来て、慌てて馬を捨てて逃げたそうだ。あの馬はどうしたものかと、コップ酒片手に馬の心配をするのであった。
 またある晩、兵士が皆んなで鍋を囲んで食事をしていた時、鍋の底から何やら爪のようなものが出て来て、よくよく見たら人間の爪だったそうだ。皆んな慌ててのけぞり、何人かの兵士は食べたものを嘔吐し、大声を上げてのたうち回ったそうだ。また、もっと酷い話も聞かされたが、余りに残酷な話なので、ここで書くのは控える事にする。そんなこんなで、酒が入ると父の戦争の話は尽きないのであった。

 週に一度くらいのペースで、父の戦友が酒のつまみを持って遊びに来るのであった。酒は父が用意した喜多方の酒「夢心」、つまみは戦友が持って来た何やら四角な白い食べ物だった。私はそのつまみを見てビックリした。なんでこの大人達は石鹸を食うんだ!と思った。後で知った事だが、それは石鹸ではなく、チーズと言って当時としては珍しい食べ物だった。匂いがプンプンして、とても食べ物とは思えなかった。

 最後はこんな失敗談
 私が彼女と付き合って結婚話がまとまった時、彼女の父親が私の家にやって来た。家に上がって話が進み、最後にまとまったところで、父は「さぁ酒でも飲みましょう」と言って、母に酒の用意をさせた。徳利に入った酒が出て来て、父が自慢気に「これは喜多方の酒なんですよ」と言っておちょこを差し伸べた。では頂きましょうと言って父はおちょこの酒を一気に飲み干した。そこまではカッコ良かった。しかし次の瞬間・・・
父の口から勢いよく酒が噴き出したのである。ゲホゲホゲホ!!!彼女の父親は目を丸くして驚いた。なんと母が徳利に入れて持って来たのは酒ではなく酢であった。彼女の父親が先に飲まなくて良かった。本当に良かった。もし飲んでいたら私は結婚出来なかったかも知れない。父は母を叱るのかと思ったが、全く叱る事もなく、笑って済ませ、無事に顔合わせが終わったのである。父は寛大だ。
そして酒は偉大だ。人生を楽しくも面白くもしてくれる。

父が愛した会津喜多方銘酒「夢心」にまつわる話でした。

(記者:関根)



神のお告げが生んだ蔵の町の名酒
《むかしむかし、良い酒を造るべく寝食を忘れて働く東海林萬之助という青年がおりました。ある日、彼は夢枕に現れた「朝日稲荷」の神さまから、酒造りの秘伝を教わります。早速試してみると素晴らしいお酒ができあがったので、萬之助は須賀川(福島県中通りの地名)の「朝日稲荷」を訪ね、丁寧にお礼をしました。すると、再び夢枕に神さまが現れ、「汝の造る酒に『夢心』と名づくべし」と告げます。萬之助は大変感動し、お告げの通り商標を『夢心』と改め一層酒造りに励みました》
 銘柄や蔵の名付けの由来は蔵ごとにさまざまありますが、これほどファンタジックな逸話を持つ酒蔵も珍しいのではないでしょうか。この言い伝えを聞いて育ったという「夢心酒造」の6代目・東海林伸夫社長は子ども時代をこう振り返ります。
「蔵人さんに“ひねりもち”(酒米の蒸し具合を見る昔ながらの方法のひとつ)を作ってもらったり、まだお酒になる前の甘い醪を舐めさせてもらったり。思えば、子どもの頃からいずれ蔵に入ることは当たり前のように思っていました」

夢心 会津金印
使用米:一般米
精米:70%
原材料:米・米麹・醸造アルコール
日本酒度:+1 酸度:1.2
アルコール度:15度

安くてしっかり旨い普通酒
フルーティささえ感じさせる、お米の旨味が満載です。
とはいえ全くクドさを感じず、すいすい飲み飽きないのが最大の魅力。冷やもいいけど、常温~お燗はホッとする美味しさです。



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